ババアの手打ち文字そば

オモコロさんでやっている文字そば(1000文字くらいのエッセイ)やりたくて

魅惑の喫煙スペース

私は札幌市内の会社に勤めている。
入社してもう10年を過ぎるが、新入社員の頃は全ての会議室に必ず灰皿が3つはあったし、個人の席で煙草を吸うのがデフォルト、みたいな今となっては卒倒しそうなくらい喫煙者の多い会社である。もっと言うと、お付き合いのある会社の方々も揃ってヘビースモーカーが多い、煙草を愛し愛された業界の会社である。

そんな弊社も5年?6年?程前から職場環境が恐ろしいほどクリーンになってきていて、そのクリーン化施策の初手の方で行われたのが分煙化だった。
もうありとあらゆるところで吸えたはずの煙草が、座席で吸えなくなり、会議中にも吸えなくなり、そのうちに吸えるフロアが制限されはじめた。
なんか分煙の設備がちゃんとしてないとあかんよみたいなお達しが国だかどっかから出ちゃって、しっかりした喫煙スペースをつくるために数か月社内が全面禁煙になったときに至っては、禁断症状が出たおっさんどもがオフィスビルの玄関あたりに群れをつくって煙草を吸ってて通行人から「異様」とクレームが入り、総務からいい年したおっさんに言うような内容ではないブチ切れメールが全社配信されたりした。今では、喫煙おじさん大苦労の末に完成した喫煙スペース(クソせま)が、唯一のオアシスのようである。

私はまったく煙草は吸わないので(酒は中毒みたいに飲む)、むしろ受動喫煙の憂き目に遭わなくてラッキーといった感じなのだが、あの喫煙スペースというやつ、どうにも抗いがたい魅力がある。

「煙草を吸う」という目的のみで集まったおじさんたちが、ぽつりぽつりとどうでもいい小咄をする。普段絶対話さないようなおじさんとおじさんが、言葉数少な目に会話を交わす。まるで場末の酒場のような温い、その瞬間のみの交流。
ちなみにうちの会社の喫煙スペースがある部分は実はなんの関係のない人でも入り込めるところにある。たまに知らんおっさんがいるなと思ってたらマジで全く仕事に関係のない知らんおっさんだったり、会社を早期退職したおっさんが紛れ込んでたりするし、ごくたまに、はちゃめちゃ有名な俳優さんが普通にいたりするので、遠くから喫煙スペースを眺めて顔面偏差値ガチャを回している気分になれるのも楽しい。SSR俳優ガチャ。

自分が入ることは一生ないであろうそのスペースは、今日も少し秘密めいた憧れで彩られているし、多分入ると臭くて死ぬんだろうから、今の距離感がほどよいのであろう。